#253 シミュレーション

 「震災の記憶があるので、サイレンを聞いてすぐ非常持ち出し袋を持って逃げた」。こう話すのは11年前の東日本大地震により津波の恐怖を知った佐藤謙太さん。宮崎県気仙沼市の市民会館に家族5人で避難したらしい。トンガ諸島の海底火山噴火から半日後の真夜中に津波注意報と警報。東日本大地震を経験した住民の多くは避難所に駆け込んだみたいだ。

 オオカミ少年効果という心理が避難指示を発令する際、事態をややこしくする。「避難指示に従い避難所に向かったが被害はなかった」。このパターンを経験すればするほど住民は避難指示への関心が薄れていくという心理である。避難という側面を考えれば切っても切り離せないような問題。しかし、彼らはそんな問題を少しも感じさせない。それほど記憶に残った経験だったのだろう。

 防災意識の向上の手段として最上位に当たるものが経験である。彼らのような11年前の経験を教訓としている人々の防災意識は嫌でも高まる。だからこそ今後は、その経験を体験させてくれるシミュレーションという技術が活躍するだろう。こういった技術による防災意識の向上を促し、少しでも大規模災害による被害者を減らせることを願う。